「団塊の世代」と「全共闘」㉖ ――「大学」の衰退、戦後の終焉の風景


●大学という場の磁力、日本人の退嬰化

――大学自体、そういう「教養」をわが身に紐付けて形成してゆくような教育を、最近はもうしていませんし。

 そう、ただ昔から大学は、そういう教育をしていたとしても、それは一般的な教養教育にすぎないんであって、制度が崩れたなかでも個々の学生はそれをしなきゃいけないと思って自分で学んだんだ。学校が、たとえば学生運動でこういうもの読めと教育するわけじゃない。

――大学という場ではあったけど、別に授業で学んだわけじゃない、と。今、その場自体が機能していないのは、内圧がないからですよ。街と一緒なんだもの。自治会がなくなったからスーフリみたいのが出てきたわけですよ。結局、革マルがいなくなったらもっと悪いのが出てきたっていうのと一緒です。以前は、大学とは四年間帰属できる特殊な場所だという幻想があったから、自治会だってサークルだってあり得たわけだけど、今、まったく通り道ですよ。


 それはむしろ、大学当局の側の問題もあるね。かつては学校に歯向かっているやつがいたんだけれど、学校側はゼミという形とかさ、教授が気に入った学生に明日うちにメシでも食いに来ないかって誘ってそこで議論をして、で、先生の書斎をみて、先生、こんな本読んでるんですか、いやー、昭和の初め頃はみんな『三太郎の日記』なんて読んだんだよ、なんて。そういう議論が当然あったわけだよ。

――今それやったら、セクハラで大問題になります。セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントですよ。「メシにつきあわされました」、「家まで来いと言われました」。研究室もドア開けてないと今、大変なんです。学生と一対一で部屋にいちゃダメなんですよ、女の子の場合は必ずドアを開けておけって。

 それさ、俺が高校時代の『高三コース』あたりに書いてあった「男女交際について」みたいだな、うちに女の子を呼んだ場合は必ずドアを開けておきましょう、とか。


――それを今、大学で公然とやっています。どんどん後退している。石坂洋次郎まで退嬰化して「青い山脈」からやり直さなければダメだ。「青い山脈」って、いま読み直すと面白いですよ。どこの国の話だって感じ。これが日本ですよ、ついこの間までの。



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 自転車に乗って歌うやつだ。俺、中学の頃は、熱中はしなかったけど、けっこうみんな読んでたね。

――それ、本気で読んでたんでしょ?(苦笑)

 中一、二の頃は、戦後十二、三年しか経ってないからね。青い山脈の、あの雰囲気は、まだ残照としてあった。

――漫画でも、東海林さだお作品における恋愛ってのも調べたら面白いですよ。いろいろ出てきます。フジ三太郎なんて、あれ三十歳そこそこの想定ですからね。年齢不祥だけどサラリーマン・マンガってみんなそうです。


 東海林さんにとっては、孫に近いような世代だ。今、七十歳くらいだから。


――サザエさんは二十四歳、たまげますね。

 それをいうなら、波平さん、今の俺より若いんだ。すごいでしょ。七十くらいにしか見えない。あの頃の定年が五十三とか五十五歳だから、俺より七、八歳は若いんだよ。帽子かぶって会社に通ってる。あと何年かしたら定年。今、俺と波平さんが飲み屋にいって、お父さんて呼んでもおかしくないでしょ。本当にこの二~四十年で日本人全員がトッチャン坊や化してきてるんだよね。

――ひとしなみに、ね。だから友達親子なんですよ、精神年齢同じなんだ。

 夏目房之介と話してたんだけど、前の千円札、漱石だったでしょう、晩年の。あれ房之介より若いんだよね。死ぬすこし前だから、四十七、八歳なんだよ。房之介は俺より五、六歳下だから五十四、五歳かな。今の彼の方がちょっと年上だから、兄貴面して漱石に「金之助、お前、こんなことも知らないのか、ダメじゃないかよ」と言う立場になってしまった。ところが顔を並べたら、今でも房之介が漱石先生をおじいさんはムリでも、親父と呼んでおかしくない。


――アメリカ人なんか三十歳くらいでも結構おっさんでしたよね。日本人異様ですよ、もともと子供っぽいところへ持ってきて過剰贅肉の付き具合がなんともまた、ウーパールーパー状態だ。生き物として活力があるとはいえない。将来的には、何らかのかたちで絶滅の危惧も充分あるように思ったりしますよ。




●戦後の終わりに何を備えるか


 基本的には経済にしろ文化にしろ、いま、ここにきて日本は、戦後の何十年か分の遺産を食い潰しているのはまちがいない。この先、よほど何かすごい内部改革のモメントが起きない限り、この流れはとまらないように思うね。
ただ、これは以前からの持論なんだけど、幸か不幸か、日本がなんとなくこの六十年間、外国から攻められなかったのは、憲法九条の問題もあるにしろ、やっぱり地理的な条件、要は島国だった、というのが大きいんだよねえ。

――それはもうどうしようもないですね。あと日本語という天然の障壁も。まず言葉として難しいから、好むと好まざるとに関わらず、これが文化的な障壁になってきた。もちろん功罪相半ばするわけで、パソコンにしても前はNECの98とか、情報システムも自分の国のものでしたから。

 ただ、戦前、日本が朝鮮を植民地にした時、日本語を強制したらみんな簡単にしゃべれるようになったじゃないか。朝鮮語と近いから。逆にいえば、朝鮮民族が日本に対して言語的に侵略しようと思えば、それも簡単なはずだよ。

――それに比べると、今のシステムはオープンになってきてますね。若いやつらは英語をそれなりにしゃべるし、翻訳ソフトも出て、そういう言語的な障壁は、かつてに比べるとかなり低くはなっていますね。

 やっぱり島国、海の問題だと思う。いくらミサイル飛ばしてきても、本気で国を侵略するには、最後に陸上部隊が入って統一しなければ話にならないだろ。地続きだったら歩いていける。でも、海の場合はいくら先制攻撃でミサイルを撃っても、じゃあ、その国を亡ぼしたあとどうするか、となると、上陸用舟艇出して所詮一回に千人、二千人単位だから、やっぱり数十万人単位で攻め込まなけりゃほんとに占領なんかできやしないわけだよ。そういう大規模な上陸作戦を仕掛けるのが大変だから、これまで日本は安穏としていられたわけだ。ただ、いつ頃からか、文化的、精神的な崩壊が起きて、ずっと続いている。このウーパールーパー状態はどうなんだろうとは、思うんだよね。

――左翼だけじゃない、保守も少し前からもう、訳わかんなくなってるじゃないですか。反米原理主義みたいなくくりで小林よしのりと斉藤貴男がひっついてるのなんか見ると、危惧というか揶揄しながら敬遠していますが。

 あれは、『わしズム』(雑誌)を運営する上での成り行きだろう。本気で、というわけじゃないと思う。

 そうかなぁ、そうならいいんでしょうけど……最近は付き合いがないから事情がよくみえないけれど、ただ、斉藤貴男が●●ガイなのは確信しているから(笑)いろいろまずいとは感じている。


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 斉藤貴男は『梶原一騎伝』(文春文庫)だけは名著で、あとはどれも面白くない(笑)。頭は悪いが、ただゆとり教育に対する批判については、貧しさの原体験があって「こんな教育制度では、金持ちは公立学校から逃げて塾に金を落とす、学校にカスばかりが残ってしまう」と、自分の体験を引き写して書いていて、もっともだと頷ける。彼は屑鉄屋の息子かな、顔は坊ちゃん風だが家は貧乏だった。親父が事業に失敗したかで没落し、本来ならば高卒で就職するところを、成績もよかったから早稲田に入ったので、その程度の頭はあった。最近の石原慎太郎批判にしても、いまどき『空疎な小皇帝』というからよほど何かを言っているのかと思ったら、どうでもいいことしか書いてない。

――どうもねえ、なんというか……姜尚中に似たルサンチマンをものすごく感じるんですよねえ。

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 ああ、それはある。屑鉄屋と、豚を飼った家というのは近いものがあるんだ。

――またそんな……(苦笑)差別だと思われますよ。

 いや、差別ではなく現実だよ。問題はそういう環境でそいつが駄目になるかならないか、ということなわけで、環境が近ければ社会に対して同種のルサンチマンをもつのは当たり前じゃないか。

――明快ですねえ。いや、確かに顔つきも考え方も近いかも知れない。今は困ったことに、その「貧乏」が顔や身振りに出なくなっている。昔は独特のにおいがあったんですが、あの二人はそれがわかりやすい。環境から来る独特の具体的なにおいがあります。

 昔の下町じゃ、どぶが実際に年に何回か氾濫していたからね。これは都市の廃水処理の問題で、ボウフラが湧きカビが生え、部落でも川が氾濫して下水に流れず、しかも家が過密に建っているから当然廃水の量も多く、処理能力が追いつかない。

 『自虐の詩』(業田良家)の熊本さんですね。一般の家でも汲み取り便所のにおいがあったけど、今の人にはわからないでしょう。


 ここ数カ月、俺は「謀略省」というものを考えている。最近の国際情勢下において現実的な平和を守るためには、ぜひつくる必要がある、と私はみている。基本的な考え方は、「謀略で、隣国同士がいがみ合おうと喧嘩しようと知りません」というものだ。

 官房副長官も同じこと言ってました。つくるぞって明言しています、公けにではないけど。宣撫工作ですね(笑)。

 戦後の、ソ連に対する親しみだって、実はロシア文化に対するもので、ソ連が政策的に流したものだし。

――だから五木寛之も、李恢成も露西亜文学にいったんですよね。

 さらに国土も利用して、バイカル湖はこんなに美しい、とか。

――寒いだけですよね。

 いや、バイカル湖はきれいらしいよ。行ったことないけど(笑)、やっぱり世界でいちばんきれいな湖なんじゃない?

――大阪万博ソ連館で、何の知識、先入観もない人を「やっぱりソ連はすばらしい」って感動させ、国威発揚人工衛星まで打ち上げた。一方、中国はパンダを送ってくる。今は女子十二楽房、こういうのが「スパイ」でしょ、やっぱ。一部で、呼んだのは実は元オウムの筋だとかも言われてますが。



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 この間死んだ橋本龍太郎が中国の美人スパイに転ばされたか転ばされかけたか、と話題になったし、ソ連はもうその当事者たちが死ぬ時期を迎えて問題になっている抑留問題とか、あれほどの大事件でありながらそれほど騒がれずにきた裏には、ソ連の仕掛けていた謀略があったわけだ。

――戦後、日本がアニメとか東南アジアに対してしてきたことを謀略だと向こうが言い出したけれど、たぶんこちらは通産省なども考えていないでしょう。

 日本は意図してはやっていないよ。

――文化も含めて戦略物資だという、そういう政策の考え方は、いまの学校教育では無理ですよね。

 できないと思う。

――ムラの外のリアルとどう向き合うか、という何十年が、ここに来てふたが開いちゃった。ミサイルが飛んできて「戦後」が終わっちゃった、ということですよね。みんな「終わりつつはあるなあ」と思っていたところに最後の幕がいきなり来た。あと水谷建設の事件で亀井静香が捕まれば、間違いなく終わりじゃないですか?。検察は狙ってるでしょうから。結局、小泉が駆逐したものは、野中、橋龍、亀井、加藤紘一……と、並べてみたらこれ、すごいですよ。時代が変わるとはこういうことかと感じ入ります。

 ただ、話はさらにずれるけど、ホリエモンと村上が捕まったいきさつは、反小泉分子がどこかで動いているってことじゃないの?

――ホリエモンは中国筋がらみもあるみたいですが。

 改革派にくっついていたホリエモンを、旧エスタブリッシュメント派の官僚が、追い落とした?

――それはあるけど、政府サイドも、堀江をまずいと思っていみたいで。というのは、当初よくわかっていなかった節があるけれど、堀江・ライブドアは最後の方、中国に相当投資しているっぽいんですよ。香港じゃなくて大連に。というのは電話サポートセンターを大連に持っていった。国際電話よりネットを使った方が安いから、日本語の出来る中国人を多く雇って安くやらせていたのがマネーロンダリングに使われて、野口英昭は沖縄で殺された、と。あの殺され方は支那人がらみじゃないか、と言われてますね。


 あり得るね。

――地方競馬の関係で二年ほど前、たまたまライブドアと現場の間を繋ぐ役回りになったことがあったんですけど、それってフジテレビを買収するとか言い出す半年前ですよ、でも、その頃から、とにかく理屈じゃないから「ライブドアだけはだめだ」って、国会議員の周辺がすごく頑なにNG出してきてたんですよ。なぜそこまで頑ななのか、訝ってたんですが、いま考えると、その前ライブドアプロ野球の件でナベツネとやりあってますよね。その時におそらく警察や公安なんかの関係から、何らかの情報がいっていたんじゃないかなぁ、と。無論、後藤組などやくざ関係はあるだろうけど、同時にきっと中国マネーがらみも何かあったんだろうな、と今となっては思ってます。

 では小泉も、ホリエモンには警戒していたの?

――じゃないですかね。武部はバカでお調子者っぽいから考えてないでしょうが、小泉はその辺冷静だったんじゃないかなぁ。あと、あの界隈のIT長者系だと、村上世彰は父がインド系で、だから最後はシンガポールに逃げたんだ、とかいろいろ言われてたりしますよね。

 ああ、そうか。顔つきで、目がギョロッとしてるのは四分の一が印僑系だからだ。あと四分の一が華僑、お母さんが日本でしょう。


――こうしてみると、団塊だけじゃなく、日本のITバブルの内実、立役者として踊ってた界隈の背景や出自来歴などの検証も必要です。

 まあ、そういう意味で言うなら、今の日本の教養、文化はITを含め、焼き畑農業の状態なんだよ。ゼニカネの効率でそれを回している。つまり自転車操業だ。

 ただ、俺はその辺りむしろ楽観的で、金で済むことなら、あと十五年か二十年を収奪農業でうまく食っていけばいいと。

――それ、むしろ厭世的なんじゃないかと(笑)。

 そう、俺、厭世的なんだよ。

――僕は、呉さんよりまだ年下で若いせいか、根本的に不安ですよ。底辺があればこそ、ピラミッドは高い。教養も一緒です。しかし今の日本では、底辺がなくて、頂点は初めから頂点なんです。だから、底辺が頂点を支えるという物語は、おそらくもう成り立たないと思う。


 実際には、ゲームソフトなどもう韓国、台湾の翻訳物ばかりで、日本はハードは出すけど、それに乗っかるソフトで、オリジナルがほとんどない。しかたないから英単語、頭の体操など、大人向けに売るわけじゃないですか。RPGも、ストーリーはほとんど韓国、台湾です。それを焼き直して日本語版に乗せるのが精いっぱいで、さっきのゼニカネの効率で言うと、そっちの方がいいんですよ、一から作るより。


 だから通産省が何を言おうが、マンガ立国、サブカル立国などあり得ませんと、現場のやつは言いますね、バカじゃないかと。異様に早くなっているのは、その収奪農業のサイクル。その根本は、やはりさっき言ったみたいな、教養自体が自分の成長――あ、いや、成長という言葉はもうあまり言わなくなりましたが、まさにビルドゥングスとかの「過程」は本質的に変わらないはずなんです。いつアクセスしても、一定量の情報が処理できる環境が保証されているから、かつての「青春と読書」みたいな教養主義は、もう存在しないしできない情報環境になりつつあるんです。