「読む」がなければ「書く」もない、主体もない

● 使うべき言葉やもの言い、道具としてのそれらをひとつひとつ丁寧に意味と紐付けて「定義」してゆき、その上であたかも煉瓦やブロック、機械の部品を手順に沿って組み立ててゆく、そんな言葉の作法、少なくとも書き言葉において文章としてつむいでゆくことが…

定年退職、の弁

*1 この3月末日をもって、札幌国際大学を定年退職することになりました。ここ数年、裁判沙汰であれこれお騒がせもしましたが、まあ、これでひとまずの区切りということになります。*2 まず、真っ先に考えてやらねばならなかったのが、この間、大学に「拉致」…

解説・村上元三「ひとり狼」

*1 長谷川伸のまわりからは、戦後の中間小説から歴史小説などの新たな読みもの文芸の市場が拡がってゆく中、何人かの書き手が巣立ち、羽ばたいていった。巷間「長谷川部屋」などとも呼ばれていたという彼のまわりの勉強会だが、のちの新鷹会、もともとは雑誌…

解説・織田作之助「競馬」

*1 競馬を題材にした創作は、何も小説の類に限らずそれぞれのジャンルにすでにそれなりにあるけれども、ギャンブルとしての競馬に合焦したものが多く、また多いがゆえに定番でそれだけ陳腐な定型になってしまっているところがある。織田作のこの作品などは、…

解説・野坂昭如「骨餓身峠死人葛」

*1● およそ「文学」と正面切って掲げられているものやこと、いや、はっきり言えばそのあたりに好んでへばりついているとしか思えないような人がたそのものもだが、いずれ、そういう界隈に縁のないまま生きてきた自分にとって、それでもなお、いいよなぁ、と、…

解説・藤原審爾「安五郎出世」

*1● 小説家が儲かった時代、というのがある。いや、あった、と過去形にした方が、すでによくなっているのかもしれないのだが。 売文渡世として書きものを換金できるようになる。それが持続して「食えるようになる」というだけでなく、まさに一攫千金、常なら…

解説・富士正晴「童貞」

*1● 書き手としての富士正晴というのも、これまた、なかなかに好もしい。いや、それどころではない、すさまじく、かつ手に負えない。それでいながら、なお好もしい。そういう書き手は、いや、ほんとうに稀有なのだ。 男の側から性欲というものを言語化して記…

解説・中山正男「豚を把んだ男」

*1● 中山正男といっても、覚えている向きはこの令和の御代、まずないのだろう。ましてや「文学」の世間では、さらに輪をかけて見事になかったことにされているはず。事実、今回この企画で採る作品の版権処理をしてもらう過程で、この中山正男だけは著作権を持…

解説・長谷川伸「舶来巾着切」

伸コ、である。長谷川伸、である。 文明開化間もない頃の横浜で、若い頃をはいずりまわって過ごした見聞を肥やしにして、その後、本邦世間一般その他おおぜいの心の銀幕にいくつもの「おはなし」を、共に見る夢として描き出す作家として大成したのは長谷川伸…

鳥山明逝去、に寄す

● 今こそ、ドラゴンボールを集めに行かねばならん――わが国のみならず、世界中がそう思ったようです。 鳥山明急逝の報がweb環境を介して瞬時にかけめぐりました。享年68。急性硬膜下血腫とのことでしたが、その衝撃は国内もさることながら、むしろそれ以上に…

「掟」ということ

*1● 「掟」というと、なぜか耳もとで必ず再生される一節がある。 「光あるところに影がある…まこと、栄光の陰に数知れぬ忍者に姿があった…命を掛けて歴史を作った影の男たち…だが人よ、名を問うなかれ…闇に生まれ闇に消える…それが忍者の定めなのだ…」 むかし…

「国際情勢」を語る話法、その静かな変貌

一時期、やたら取り沙汰され、とにかく理屈抜きにいいもの、正しい方向として喧伝されてきていた、あの「国際化」とか「グローバル化」といったもの言い、スローガンも、さすがにもう胡散臭いものというイメージがつきまとうようになってきたかも知れません。…

読み書きと「わかる」の転変

● 最近、おそらくは老化がらみでもあるだろう事案ですが、あれ、これはひょっとしたらヤバいかも、と思っていることのひとつに、「横書き」の日本語文章が読みにくくなっているかもしれないこと、があります。 いや、読むのは読めるんだけれども、腰を据えて…

「和解」のご報告、ご挨拶

*1● 札幌国際大学人文学部教授の大月隆寛です。 2020年6月29日に大学から不当な懲戒解雇を受けたことで、裁判に訴えて争っていた一件ですが、昨年暮れ12月27日に、札幌高等裁判所において「和解」が成立いたしました。 ch桜北海道でも速報でお知らせし…

八代亜紀「うたに感情を込めない」、のこと

*1 *2● 1月10日のスポーツ紙朝刊、八代亜紀の訃報が、まるで阪神優勝の勢いで特大の色刷り活字の見出しの乱れ打ちと共に右へならえ、横並びの潔さで躍っていました。 ああ、それほどまでに、本邦スポーツ紙の想定読者層にとっての八代亜紀、いや、より丁寧に…

和解成立に際して (記者会見リリース)

*1 2020年6月29日付けで、札幌国際大学より「懲戒解雇」を申し渡されました件について、本年2023年2月16日に札幌地方裁判所で出された一審判決を不服として大学側が提訴していた控訴審ですが、本日、大学側との和解が成立しました。 和解内容、および和解に…

「詩」とは、あたりまえに「うた」であった

● 前回、「美術」「芸術」に対して、ずっと抱いていた敷居の高さのようなものについて、少し触れました。せっかくなので、そのへんからもう少し、身近な問いをほどきながら続けてみます。 あらためて思い返してみれば、同じような敷居の高さ、距離感といったも…

池田大作 (本当に)死す

池田大作氏が、本当に亡くなったようです。 自分などはやはり、かつて「折伏」を介してさまざまに物議を醸しながら精力的に布教活動をしていた頃の創価学会の印象が、当時のさまざまな事件や挿話などと共に、未だに強くあります。その後、公明党を介して政界に…

「美術」「芸術」から「コンテンツ」へ至る道行き

● 期せずして無職隠居渡世に突然なってしまったことで、それまで気になっていてもなかなかあらたまって読むこともできなかったような分野の本――もちろん古書雑書ですが、これもまあ、ある種の怪我の功名というのか、日々の仕事にまぎれて敷居の高かったそれ…

「音楽」の転生・転変、その現在―「NOT OK」からの不思議

● 同時代のうた、眼前の〈いま・ここ〉に流れている最新の、いや、そうでなくても、ある程度いま、商業音楽として市場に流通しているいまどき流行りの楽曲に、おのれの耳もココロも反応しにくくなってしまうことは、加齢の必然と半ばあきらめてしまっていま…

Blue Collar Aristocrats : Life Styles at a Working Class Tavern ……④ 仕事の世界

仕事の世界 「俺たちが組合を持ってるってのは、クソみてェにいいことさ」 ――『オアシス』に来る大工の弁 ● はじめに 歴史的に言って、西欧社会においては人生の中心は仕事であった。その自己イメージと、その地域での地位双方は、どれだけ稼ぐかにかかって…

Blue Collar Aristocrats : Life Styles at a Working Class Tavern ……③ 居酒屋と街とセンセイ

居酒屋と街とセンセイ 「『オアシス』であんたはいつだって楽しい時を過ごせるってわけだ」 ――『オアシス』の常連の弁 ● 居酒屋 『オアシス』はご近所のための居酒屋ではない。その客たちは歩いてではなくクルマでやってくる。彼らのうちの何人かは数マイル…

Blue Collar Aristocrats : Life Styles at a Working Class Tavern ……② はじめに

はじめに 「おれたちゃあんたのことを、ポリ公にしちゃいいヤツだ、と思ってたんだぜ」 ――筆者についての『オアシス』の常連の弁 社会、とりわけ複雑で多様な合衆国のような社会においては、社会の異なった切片を記録し、分析することは重要な作業である。こ…

Blue Collar Aristocrats : Life Styles at a Working Class Tavern ……① まえがき

Blue Collar Aristocrats Life Styles at a Working C作者:Lemasters, E. E.University of Wisconsin PressAmazon まずは、例によっての言い訳から。 翻訳を引き受けたものの、なんだかんだで延々お手玉せざるを得なくなり……あ、いや、正直に言えば、ただた…

鼻歌、ということ

● 鼻歌をうたう、という身ぶり、あるいは日常生活上のちょっとした癖みたいなものでしょうか、いずれにせよ、そういうしぐさもまた、昨今見かけなくなったもののひとつかも知れません。 たとえば、『あたしンち』という、けらえいこのマンガに出てくるおかあ…

「生きもの」を扱う仕事、のこと

● 「生きもの」を扱う仕事というのが、世の中にはあります。というか、あたりまえにありました、少し前まで、ある時期までは。 「生きもの」というと、身近なところだと犬や猫、昨今は兎やハムスターなども含めた、いわゆるペットとくくられる小さな動物を、人…

「孤立」とうた、自意識の解き放たれ方

● 歌は世につれ、世は歌につれ、というもの言い、玉置宏の発案と言われてますが、その真偽はともかく、そこで言われているような、世の中と「うた」とが自明にがっちりからみあい、共に存在するという認識自体、もしかしたらすでに静かに歴史の向こう側に退…

「上げ馬神事はかわいそう」一辺倒に疑問 

*1 元競走馬に約2メートルの土壁を駆け上がらせる三重県桑名市の「上げ馬神事」について、動物愛護法違反の疑いがあるとして6月、県警に刑事告発された。 5月の神事で1頭の馬が脚を骨折し、その後殺処分とされたことなどからSNS上で批判が噴出。奉納先の多度…

「上げ馬神事」の事故について・雑感

*1● 馬を2mほどの高さの、ほとんど「壁」に等しいところ駆け上がらせる。というよりも、人間たちがまわりで寄ってたかって囃し立て、無理にでも押し上げるのが見せ場になっているという神事が、警察に告発されたという件について、言っておかねばならないこと…

文字/活字の〈リアル〉視聴覚系の〈リアル〉

● そう言えば、 「盛り場」という言い方も、最近はあまりされなくなったようです。 飲み食いから夜は酒やオンナなども、そしてそれに伴いさまざまな興行もの、その時その場所での「上演」を属性とするような「消費」が、場合によっては24時間体制ですら準備され…