1994-01-01から1年間の記事一覧

30代「論客」的保身の蔓延

村山内閣が成立して半月あまり。マスコミ各方面はどこもこの内閣についてどう距離をとっていいものやら、ほとほと当惑しているというのが正直なところらしい。 新聞の論調をひとわたり眺めてみても、その種の戸惑いはありあり。「こんな内閣ができるようでは…

平山蘆江。着流しで眺めていた世間

ふたりの男が何やらあやしげな物腰で道端にたたずんでいる。 ひとりは中国の人民帽のような帽子をかぶって背中丸めて身構え、もうひとりはこれまたチューリップハットのようなものを頭に乗せて鉄縁眼鏡でしゃがみこむ。ふたりの間には肩からかつぐうどん屋の…

熊たちのもたらした言葉――大量生産、大量消費の“もの”に宿る「文化」の凄味

*1 小さい頃、初めて持たされたぬいぐるみは犬と熊だった。ただし、熊は四本足で四つんばいになっていて平べったい顔をしていた。 書店に並ぶテディベアについての本をめくっていると、一九五〇年代に作られたテディベアの中にちょっとした仕掛けで動くよう…

産経新聞

無法松の影

夏の小倉に太鼓が響いた。西瓜だろうか、何かやわらかな食べものが舗道に落ちて赤黒いしみになり、有機物が腐ってゆく甘酸っぱい匂いを往来に放っていた。きれいに整えられた山車にはどれも冷たい飲みものを積んだ小さな車がクーラーボックスよろしくくくり…

貘与太平。“思想なき気質”の全力疾走。

「トスキナア」というオペラが上演されている。場所は東京、浅草は観音劇場。時は大正八年の春。遠い、しかし〈いま・ここ〉の僕たちと地続きの昔だ。 逆さに読めば「アナキスト」。スリが役所公認の稼業になり、赤い帽子に青いマント、免許を懐におおっぴら…

『別冊宝島』創刊200号

宝島社の看板雑誌『別冊宝島』が創刊二〇〇号を迎えました。 それを記念して、これまでのベスト・セレクションが出ています。題して『我らの時代』。表紙の惹句によれば、「二〇〇冊一二万枚の原稿の中から選ばれた、時代を浮き彫りにする傑作ノンフィクショ…

園井恵子、三十三年の夢。ただし、その他おおぜいの。

*1 大正の始め、夏空の広がる八月六日の昼下がり、岩手県はなだらかに広がる岩手山のふもと、松尾村というところにひとりの女の子が生まれた。名前は袴田トミ。父清吉はもともと養蚕をやっていたが、彼女が生まれた時の稼業は和菓子屋。母カメは時の村長の長…

ドイツの「言葉狩り」、裏返しのファシズム

一四日付の本紙朝刊の一面に、実にいやな記事が載っていた。 冒頭の部分を引用しよう。「ドイツ連邦政府は一三日、第二次大戦中にヒトラー・ドイツが犯したユダヤ人の虐殺を歴史的事実として認めない発言があれば、その発言だけで懲役三年以下の犯罪になる――…

「大学」という場所のいまどき(往復書簡)⑥

拝復 いわゆる偏差値世代が知らず知らずのうちに抱え込んでしまった「優秀さ」について、世間はまだ充分に自覚していないように、小生には思えます。 偏差値教育の弊害についての議論はすでに百花繚乱、当の文部省ですら報告書などの中では「改善」しなけれ…

「公衆便所」の栄光――岡本夏生と飯島 愛

監督は岡本喜八。脚本は森崎東。タイトルはズバリ、『夏生の従軍慰安婦』。こんな映画、撮れないもんかね。いい反戦映画になると思うんだけど。 こういう馬鹿話に破顔一笑、いいねぇ、と笑ってくれる人間というのは信頼できる。ただし、何に対するどういう信…

拝復、『噂の真相』賛江

筆の勢いというのはある。また、勢いで書きつけねばならぬ仕事の立場というのもある。だが、それも長年やっているとその立場も自覚できぬままの、言わば考えなしの自動筆記と化してくる。ひとり正義ヅラしたメディアの無責任はそんなところに胚胎する。 *月…

『噂の真相』へ反論

筆の勢いというのはある。また、勢いで書きつけねばならぬ仕事の立場というのもある。だが、それも長年やっているとその立場も自覚できぬままの、言わば考えなしの自動筆記と化してくる。ひとり正義ヅラしたメディアの無責任はそんなところに胚胎する。 *月…

キャンター一年、ダク三年――日本にもあった繋駕速歩競走のこと

*1 この『騎手物語』に出てくる競馬は、ご覧になってもらえばわかるように、今の日本で普通に行なわれている平地競走とは趣きが違います。かつて『ベン・ハー』に出てきた古代のチャリオットレースのような、馬の後ろに二輪車をくっつけて走る競馬。正式には…

映画『騎手物語』パンフ

国を「愛する」というもの言い

*1 「息子はアメリカを心から愛していました」 一瞬、のけぞった。のけぞってなお、その言葉が耳に残った。 ロサンゼルスで日本人留学生二人が銃撃されて死亡した事件で、例によって被害者の父親が記者会見の際、言った言葉だ。 別におのれの国でなくても、…

『噂の真相』創刊15周年

『噂の真相』が創刊十五周年を迎えた。 発行部数についてはもったいつけて一切沈黙を守っているが、流通その他の周辺情報から推測すると八万部前後は出ている様子。このような規模の小さな雑誌が廃刊、あるいは事実上寝たきり状態になってゆく中、曲がりなり…

「大学」という場所のいまどき(往復書簡)⑤

拝復 誠実な答えをありがとう。一読させてもらってこういうことを考えました。 以前、小生が事例としてあげた『無法松の一生』の敏雄の“その後”には、こんなエピソードが連なっています。 『無法松の一生』では、引っ込み思案の敏雄が松五郎とのつきあいの中…

民俗学者(下)――赤松啓介さん

なるほど、同じ学生と言っても、昭和初年の「学生」は昨今のそれとは全く意味が違う。冗談ではなく今の大学院出の博士様ぐらいの感覚は一般にあったはずだ。 そういう“エラい”の代表のような学生が、これまた“エラい”の印である学生服に学生帽でもかぶってム…

ホンカツから転載依頼(笑)

「「拝啓、時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。さて、現在刊行準備中の本多勝一『貧困なる精神Y集』(毎日新聞社、94年4月刊行予定)に、先のあなた様との対談、あるいは座談会を収録させていただきたく、なにとぞ宜しくお願い申し上げます。…

「大学改革」の独走・文部官僚の強硬

官僚の本音がうまく伝わってこないのはいつものことだが、こと最近の大学改革についての文部省および文部官僚たちの異様な強硬策は、大学関係者の間にじわじわと恐慌状態をもたらしているようだ。 首都圏郊外に学園都市を構える某国立大学では、私立大学の非…

民俗学者(上)――赤松啓介さん

「路上の達人たち」というタイトルで、永らくこの誌面をお借りしていろんな人の話を聞かせてもらってきた。 バナナの叩き売りの北園さんから始まって、「人間ポンプ」の安田さん、個人タクシーの坂口さん、鯨とりの川崎さん……などなど、移動する仕事、言わば…

企業年金 路上の達人たち 23

いいことなし、の弁

何もいいことがなかった、と思う。 学生時代に柳田国男に出くわし、民俗学に首突っ込むようになって今年で足かけ十五年。曲がりなりにも民俗学者の看板掲げるようになってからでも、すでに十年近くたつ。 この三月で三十五歳。理科系より気の長い文科系の学…

井田真木子の大けが

人間、向いていないことをいきなりやると大けがをします。文春の月刊女性誌『クレア』で始まった井田真木子さんの連載コラムが、まさにそういう大けが。一読者として診察する限り、このままだと出血多量で失血死しかねないような瀕死の重傷です。 「みんなの…