大学

予備校と学校の間

ともあれ予備校とは、同じ「学校」でもそのようにちょっとズレた空間ではあった。 「センセイ」の側には、いわゆる「学校」とは違う輝かしさを勝手に当て込んだ無防備が、そして生徒の側にも、その通常の「学校」との距離感によって保証される何か奇妙な「学…

「センセイ」という幻想

幻想があくまでも関係性の中で立ち上がるものである以上、「センセイ」幻想も単なる一方の勘違いというだけのものでもない。生徒の側がそのような幻想を作動させてゆく事情というのも、ことの半分として充分に存在する。 これまで述べてきたような予備校の場…

予備校のセンセイというヒーロー

予備校の教員室にたまっていた「センセイ」たちの自意識のありようは、関係性の動物である我ら人間の常のこと、彼ら彼女ら自身の内側だけで決まってきているものでもなかった。彼ら彼女らを「センセイ」と呼ぶ側、たとえば最も身近なところでは生徒の側から…

予備校の教員室から

予備校の教員室には専任の教員だけでなく、非常勤の教員として「食えない」大学院生がたまっていた。博士課程の単位だけは取ってしまって職がないので籍だけ残している、俗にOD(オーバードクター)と呼ばれる連中がほとんどだったが、日常の教務の大部分…

「大学」という場所のいまどき(往復書簡)⑥

拝復 いわゆる偏差値世代が知らず知らずのうちに抱え込んでしまった「優秀さ」について、世間はまだ充分に自覚していないように、小生には思えます。 偏差値教育の弊害についての議論はすでに百花繚乱、当の文部省ですら報告書などの中では「改善」しなけれ…

「大学」という場所のいまどき(往復書簡)⑤

拝復 誠実な答えをありがとう。一読させてもらってこういうことを考えました。 以前、小生が事例としてあげた『無法松の一生』の敏雄の“その後”には、こんなエピソードが連なっています。 『無法松の一生』では、引っ込み思案の敏雄が松五郎とのつきあいの中…

「大学改革」の独走・文部官僚の強硬

官僚の本音がうまく伝わってこないのはいつものことだが、こと最近の大学改革についての文部省および文部官僚たちの異様な強硬策は、大学関係者の間にじわじわと恐慌状態をもたらしているようだ。 首都圏郊外に学園都市を構える某国立大学では、私立大学の非…

「大学」という場所のいまどき (往復書簡)④

拝復 同じ駄菓子屋の店先での経験、興味深く読みました。 一次的に立ち上がる欲望としての「欲しい」よりも先に、自分がどんな品物を選択するのか、そしてその選択した自分がどのように見られるのか、といったところに焦点が合ってしまう自意識のありようを…

京都学派の頽廃

有為転変が常態のこの売文業界に、一見細々と、しかし時代の趨勢とは別に必ず一定の政治力を行使し続ける「京都学派」という一派がある。もちろん、歴史的に見ればまた別の意味を持つのだが、しかし昨今ではそのような重々しい思想上の立場を共有したある徒…

「大学」という場所のいまどき(往復書簡) ③

拝復 お元気そうで何よりです。 いわゆる「おたく」の属性として語られる自閉の問題ですが、自閉それ自体はプラスともマイナスとも言えない、その「自閉」という「手段」=「道具」をフルに活用して達成するべき「目的」が見えない事態こそが問題なのだ、と…

「大学」という場所のいまどき (往復書簡)②

拝復 昨年秋以来、ちょっと油断して不摂生したり、あるいはおのれで気づかぬながら些細な心労ため込んでゆくがごとき日々続けばたちどころに下血する潰瘍性大腸炎の身の上、つくづくボケるまで生きる自信はなく、いや自分に限らずわが世代のかなりの部分は予…

「良心的」出版社という幻想

大学の教員、ないしはそれに準ずるような「学者」「知識人」方面を、著者としても読者としても、主な相手にして成り立っている出版社がある。 文部省科研費の出版助成などをアテにした事実上買い取りに等しいような企画で糊口をしのぐ会社もあれば、目立たぬ…

大学という場所のいまどき (往復書簡)①

*1 *2前略 ごぶさたしています。お元気でしょうか。 風の噂に聞くところでは、早稲田の雄弁会の学生たちにかつぎ出され、大隈講堂で高野孟や何とかいう社会党はシリウスの代議士などを集めたシンポジウムの司会をやり、その場の学生たちをバッサバッサとなで…

社会のことを考えるな

ごくたまにだけれども、学生主催の講演会で話をしてくれと言われる。 とは言え、人を呼んで話を聞くという作法自体がすたれてきているご時世。主催者側には何の目算もない場合が多く、そうするものだ、という程度のこと。ひどい時には「いまどきの大学生にひ…

いま、敢えて「学生」である意味とは?

*1 ● 「今何やってるの?」 「学生やってます」 たとえば、親戚のオジさんとかに聞かれたらそう答えるでしょ。でも、その「学生」の内実ってただ学生証を持ってるってことだけで、考えてみりゃみんな案外他人ごとなんだよね。雑誌や新聞、テレビなんかのメデ…

若き民俗学徒からの手紙

*1 大学生になってからの3年間、自分の中で、眼前の「民俗学」に対する何らかの不信の思いは、どうにも払拭される気配がないままでした。 その間、例の「市町村史編纂」の長さにもだいぶ身を染めまして、一応は「聞き書き」に励みながら、地元側から「こっち…

趣味は社会主義――『朝日ジャーナル』という「趣味」の雑誌

*1 今も『朝日ジャーナル』を読んでいる人たち、というのがいる。 いや、天下の朝日新聞の、それも売りものとして世間に流通している雑誌なのだから落ちぶれたりとは言え何万人かの読者はいるのはあたりまえ(かな?)なわけだし、第一そういう人たちがいら…

拝啓、井上緑様――東大「中沢新一騒動」と、ある女子高校生のこと

*1 *2 *3拝啓、井上緑様。 あなたは今、どこで、どのように、この一九九二年の春を迎えているのでしょうか。 今からちょうど四年前、一九八八年四月一三日付『朝日新聞』の投書欄に、「栃木県在住」の「公立女子高校生」だったあなたの手紙が載りました。ご…

事務という他者の「知恵」

● 別に大学に限ったことではないが、学校を運営してゆくさまざまな仕事の中で、教師と事務との関係というは常に微妙な緊張をはらんでいる。 他でもない僕自身が教師の立場にあるから、ここらへんあまり棚に上がったもの言いもできないのだが、それでもその緊…

喫茶店の小僧寿司

*1 とある昼下がり、ぽっかり空き時間があ゛きたので例によって古本屋をひやかし、一服しに入った神保町の喫茶店での光景。 大きめのテーブルの一方にふたりづれがいる。男の方は特徴のない銀縁メガネ。卵形の顔に腰のなさそうなヘナヘナの髪を右に流してい…