民俗学

民俗学的思考の来歴・覚え書き――「現代民俗学」のための、迂遠な考察

――故に日本がもし今までの通りに、いくらか流行におくれつつも、真似だけはかならずする国民であるならば、これから三十年五十年の後の、学問の方向だけはおよそ予察しえられるのである。ただ大学は寺院に次いでの保守派であるから、やや余分に遅蒔きに渋々…

「丸さん」のこと

佐倉の歴博にいた頃、共同研究に加わってもらってました。もとは、北九州大に勤め始めた重信氏が「九州でオモシロい人がいる」というので、紹介してもらったのが最初だったかと。福岡市博の福間氏なども含めて、地元の若い民俗学者や歴史学者その他を従えて「…

新たな「都鄙」「内地雑居」問題

国籍法の「改正」が国会を通過しました。何か奥深い理由でもあったのか、拙速を絵に描いたようなザル審議で、メディアも通りいっぺんの報道しかしないまま。大方は何が起こっているのかわからないかも。 「過疎」ということが言われ始めたのは高度成長期半ば…

「給仕」ということ

「書生の本領」、というのは、16年ぶりの看板である。元の連載がいつ、どこの雑誌で店開きしていたものか、は言わない。ただ、そうだよなあ、時代ってこうやって変わるんだよなあ、ということだけを、今さらながらにふと、言い添えておく。 ● 「書生」とはこ…

 競馬と北海道

●競馬から日本が見える 今日は、競馬の話をします。北海道と競馬、特に地元に密着した地方競馬のあり方について、少し理解を深めてもらおうと思っています。 と言っても、あなたがたいまどきの若い人たちは、競馬そのものをもうあまり楽しまなくなっているん…

「観光」と〈おはなし〉の間――「五寸釘の寅吉」をめぐって

*1 ● 五寸釘の寅吉、の譚である。 「五寸釘の寅吉」、本名西川寅吉。明治時代の犯罪者で、何度も脱獄を繰り返したことで知られる。特に北海道の樺戸や空知の集治監から数度にわたって脱獄したことで、「有名」になった。単に全国的にメディアを介して知られ…

大相撲、あるいは北の湖理事長の、孤立無援について

大相撲はショーだ。だからきびしいしごきによって、あらゆる技能を身につけ、危険を克服してから、それを見せるものにしているんだ。その見せる相撲をまねるから、あぶないものになるんだ。 ● いま、相撲は気の毒である。 あらゆる意味で損な役回りに追い込…

大正初期浪曲雑誌の一動向――『正義之友』から『駄々子』を素材に

*1 ――この間初めて一席ぶっ通して聞いたがね、妙なもんですな、浪曲って奴は。なんとなく憎めない駄々っ子といった感じですな。古い浪曲の範疇に属する語り手なんだろうが文句なんか相当デタラメが多い。それでも糞ッと思えない所がなんとも妙だ。(1) ――…

「都市伝説」の逆襲

ああ、今のニッポンの情報環境だと「都市伝説」はこういう具合に裏打ちされて再活性化してゆくのか、と改めて興味深く眺めています。例の食物「偽装」疑惑の連鎖です。 ハンバーガーのパティは実はネコの肉で……といった、証拠はないけどもしかしたらそうかも…

さらに「ハケン」について(改稿)

*1先日書いた「ハケン」にまつわって、もう少し。 今の「ハケン」の制度が不条理なのは言うまでもない。まずあの異常な「搾取」の仕組みをどうにかしないと、「働く」ことの意味からして世間の信頼を失い、腐ってゆきます。 ただ、そんな政策的な話とは別に…

さらに「ハケン」について

先日書いた「ハケン」にまつわって、もう少し。 今の「ハケン」がかつての口入れ屋に集まる人たちと違うとしたら、働く側が「個人」の「自由」を価値にしていることでしょう。確かにそれは「自由」ではあります。かつての日雇い土工や渡り職人と同じような意…

「ハケン」の来歴

「ハケン」と呼ばれてテレビドラマの題材にまでなっている派遣社員。でも、それを束ねる人材派遣業者、って昔からあるんですよね。口入屋とか桂庵とか言ってましたが。 女中……あ、いや、今は家政婦さんって言わなきゃならないんでしょうが、要するにお屋敷や…

浪花節がつくった日本の近代

浪花節。浪曲。日本人のメンタリティーを語るとき、必ず語られる一方で、古臭いものと否定されることも多く、今は耳にする機会も少ない。しかし、四月から札幌国際大人文学部現代文化学科教授を務める民俗学者大月隆寛さんは、浪曲こそが日本を国民国家にし…

渡辺京二のこと

大学という場に戻ったことで、自分の中でまた変わったことがいくつかあるように感じている。 変わった、というよりは、思い出した、という方がより近いかも知れない。あるいは、思い出してそれを目の前の状況に適応させる、その時の手さばきの感覚を確認して…

男らしさ・考 vol.31~40

マンガの世界では、それまであった少年マンガ、少女マンガ、という、それはそれで幸福でもあった棲み分けが、おおむね80年前後になしくずしに崩壊している。いわゆる「ラブコメ」の浸透、「恋愛」というモティーフの内在化がひとつ大きなきっかけになった…

男らしさ・考 vol.21~30

「家庭」は「ユーモア」「お笑い」と手に手をとって、新たな〈リアル〉をかたちづくっていった。 おおむね大正末から昭和初年にかけての時期に芽生え始め、最初は一部の、都市在住の「中間層」の感覚や趣味に沿ったものだったけれども、しかし戦中戦後をはさ…

男らしさ・考 vol.11~20

「家庭」にも、すでに歴史がある。けれども、誰もが「そういうもの」として日々やり過ごし、それをいちいち意識することはない。そうするうちにその「そういうもの」の中身は知らず知らず変わってゆく。民俗学者の眼の高さから見える歴史とは、案外そういうも…

男らしさ・考 vol.1~10

*1 九州はしみじみと異国だ――だいぶ前、ある原稿の冒頭にそう書いたことがある。今でも十分にそう思っている。 全く縁がないわけではない。亡くなったオヤジは若い頃八幡で働いていたし、母方がもともと九州の出。親類縁者は今でも結構九州にいる。小さい頃…

「ご先祖さま」の現在

*1 人が亡くなってからある一定の期間、三十三年なら三十三年たつと年忌明け、ひとまず先祖にひとくくりにされる、という考え方がわれわれ日本人にはある――民俗学ではそう言われています。 どうしてそういう考え方になるのか、についてもまた、文化や歴史、…

宮本常一、ふたたび、の文脈

宮本常一が、また静かに注目されている、そうである。 民俗学者の宮本常一、である。〈あるく・みる・きく〉の実践者である。近年改めて注目されるきっかけになった佐野眞一の評伝のタイトルにならえば、『歩く巨人』。文字通りに足で「歩く」ことでしか地方…

靖国、というアポリア

戦後六十年、である。それは人間ならば還暦、亡くなった人をしのぶことのできる人すらこの世からほぼいなくなってしまうくらいの時間なわけで、その程度に「戦後」もまた歴史に繰り込まれてゆく。 民俗学の教えるところによれば、人は死んだ後、一定の時間が…

三角は飛ぶ、金属ならなおさら…

三角は飛ぶ。戦時中の疎開学童に向けて柳田国男が書いた文章のタイトルにそうある。震災後の東京から、急角度な茅葺(かやぶ)き系の三角屋根がなくなってゆくことを嘆いたものだった。 そう、三角は飛ぶ。実によく飛ぶ。金属ならばなおのこと、なにせ全国数…

あたしの「網野史学」

*1 ● 電話の向こうで、いつも会う時よりも少しだけ低い、でもやはり心地よい太さのあの声が響いていた。 「オーツキ君、悪いけどそれはダメだ。できませんよ」 20分くらい、いや、もしかしたら30分以上、受話器を握っていたかも知れない。この世代の年長…

札幌の都市伝説について

*1 ●都市伝説という現象について 「都市伝説」という概念はアメリカの民俗学で提示されてきたものですが、都市伝説自体は、工業化とそれに伴う大衆社会化の中で必然的に現われる現象で、いわゆる先進国だけじゃなく、世界中に見られるものです。 ただ、それ…

バスガイドという仕事

バスガイドという仕事の「語り」って、民俗学の視点から見るとどうなるんだろう。窓の外を流れる風景が、ガイドの「語り」を補助線として全く別の意味を車中の空間に立ち上がらせてゆくわけだけど、「観光」という意味の付与された空間の立ち上がる場、とい…

熊野・再考

● 熊野ブーム、みたいなものが昨今、訪れているらしい。 らしい、というのも今さらだが、「熊野」というブランドをめぐって新たな商売が成り立ち始めている、それは確かだ。熊野古道などはそのアイテムのひとつ。そこに、熊野が「世界遺産」の暫定リストに登…

このささやかな本について――『中津競馬物語』まえがき

*1 この本は、大分県の中津市にあったちいさな競馬場の、厩舎で馬と共に暮らし、働き、競馬を仕事としてきた人たちの、ささやかな記録です。 競馬、と言った時に、誰もが思い浮かべるのは、華やかな中央競馬――JRA(日本中央競馬会)の主催する毎週末、土…

 三人の具眼の士

*1 「さて、君もこれからどしどし論文を書かなきゃいけないんだけれども……」 廊下の端っこの小さな研究室、講義のある日は真っ昼間からさしむかいの酒盛りが、いつしかお約束になっていました。 「学者の世界というのはほんとに狭い。自分の書いたものがどこ…

書評・沖浦和光『幻の漂泊民・サンカ』

「サンカ」と聞いてピンとくる人は、ある意味要注意。さらに「漂泊」「異人」「異界」「周縁」「闇」なんてもの言いにもうっかり眼輝かせちまうようならなおのこと。そういう性癖を持っている向きにいきなり冷水をぶっかけるような本、なのだ、ほんとは。 山…

百円ショップの正義

百円ショップのお世話になったことは、おありでしょうか。おありなら、どれくらいの頻度でのぞきます? それはコンビニと比べると、どちらが回数が多いです? 身近にまだなくて、という向きもあるでしょう。でも、百円ショップってよく見れば最近、結構増え…