1993-01-01から1年間の記事一覧

上々颱風ツアーパンフレット

解説・赤松啓介『神戸財界開拓者伝』

神戸財界開拓者伝作者:赤松啓介メディア: 単行本 民俗学者赤松啓介の最良の仕事は何か、と問われれば、迷わずこの『神戸財界開拓者伝』を推す。 初版は一九八〇年七月、神戸市長田区の太陽出版から出されている。箱入り六五九ページの布装。色はなんというの…

公営競馬が面白い

*1 公営競馬が面白い、というのはある部分、「ザ・競馬」である中央競馬との距離感で決まってくるんですけどね。ただ、公営競馬もいろいろで、南関東のそれこそ大井みたいにほぼ中央並みの規模のところもあれば、益田みたいに一着賞金数万円、ノリヤクがケガ…

「良心的」出版社という幻想

大学の教員、ないしはそれに準ずるような「学者」「知識人」方面を、著者としても読者としても、主な相手にして成り立っている出版社がある。 文部省科研費の出版助成などをアテにした事実上買い取りに等しいような企画で糊口をしのぐ会社もあれば、目立たぬ…

大学という場所のいまどき (往復書簡)①

*1 *2前略 ごぶさたしています。お元気でしょうか。 風の噂に聞くところでは、早稲田の雄弁会の学生たちにかつぎ出され、大隈講堂で高野孟や何とかいう社会党はシリウスの代議士などを集めたシンポジウムの司会をやり、その場の学生たちをバッサバッサとなで…

洗車場という商売

*1 洗車場という商売がぼちぼち流行している。 まぁ、駐車場どころかおのれの棲む場所にもこと欠くありさまで、それでもなおクルマを持ちたいという人々のひしめきあう街中だけのことかも知れない。いずれ住宅事情のなせる商売であることは間違いないが、に…

「売文」の倫理、「投書」の不気味

*1 ● ものを書いて、それを売ることでおカネを頂戴する。売文業という言い方は今では流行らなくなったけれども、しかしあれほど読んで字の如し、あっけらかんとわかりやすいもの言いというのもちょっとない。文章を売るなりわい。なるほどその通り。書いてな…

 太地の鯨とり……(下)

● 小浜さんたちの故郷、和歌山県東牟婁郡太地町は人口約四千人。熊野地方独特の入り組んだ海岸線に沿ってひっそりと入江の奥に片寄せあう町だ。 大阪からでも名古屋からでも、いずれにしても紀伊半島をぐるりと回らなければたどりつかない土地。新型車両の投…

民俗文化としての左翼

*1 非常勤で行っている都内某大学でのこと。 ある朝、正門を入ったところでひとりの若い男が演説をぶっていた。いまどき鉦太鼓で探しても見つからないような年代もののヤッケを着込み、色褪せたヘルメットをかぶった彼は、それでも頬引きつらせながら立て看…

図書新聞

「教育」はいかに語られてきたか

*1 編集部のOさんからドカッと眼の前に積み上げられた、いずれ「教育」や「学校」にまつわる本はここ十年の間に出された都合一〇冊。具体的には以下のようなものだった。とりあえず初版刊行年代順に並べてみる。 林竹二『教育亡国』(筑摩書房 一九八三年)…

太地の鯨とり……(上)

● 国際捕鯨会議(IWC)が開催されている京都駅駅頭。小雨混じりの天候の中、工事中のフェンスが複雑に張りめぐらされた駅前の広場に、男たちが並んでたたずんでいる。一様に小柄だが、ちょっといかつい身体つきが観光のコードでまとめられた街並みと微妙…

野放しの「趣味」のたよりなさ――尾崎豊「一周忌」、その他

*1 ● 先日、尾崎豊の一周忌にあたってさまざまな催しがあったらしい。お定まりの追悼集会はもちろん、酩酊状態で素っ裸の彼が庭先で倒れた民家にまでファンが押しかけたというし、墓地は墓地で今や半ば名所化しているという。 ただ、自称ファン、あるいはそ…

「ルポ」の未来は悲惨だ

いわゆるルポライターやノンフィクション作家といった人たちと行きあう。型通りの名刺交換をする。するとこっちの「学者」という肩書に向かって話をされることになりがちで、取材シフト丸出しの構えで耳傾けられたり、妙につっかかってこられたり、あるいは…

確かな足もと≒〈リアル〉は一日にしてならず――NHK「やらせ」問題の周辺

*1● 「事実」と言うと顔しかめる。「現実」と言うと笑われる。まして、それを何らかの「正義」の匂いを背景にもの言いすると、人はそのまま耳ふさぐ。 気がつくと、「事実」や「現実」というもの言いがそこまで薄っぺらで奥行きのない、信じるに足らない響き…

それぞれの「豊かさ」

ここ二年ばかり、ある調べもののため、定期的に小倉に出かけている。 なにせ大学の教員稼業のこと、世間の他の仕事にくらべればまとまった休みがとりやすいのは確かだが、それでも、ゆっくり調べものができるだけの時間と体調を確保できるのはやはり夏休みと…

戦争が「とにかくよくないもの」のままであることの危険性

*1● 「戦争」というもの言いが、ずっと気にかかっている。 単語としての「戦争」というのは、それが活字のかたちで目に触れる場合であれ、あるいはもの言いとして耳に入る場合であれ、今やこの国ではとにかくよくないもの、ひたすらに悪いもの、無条件に忌み…

「歴史」という不自由

「歴史」はもういらない。「歴史」というもの言いにまつわっているあのカビ臭さが、今やまず絶望的にまで不自由だ。 たとえば、書店のコーナー、積み上げられる「歴史」書の類。そこにたむろするアスコットタイのオヤジたち。あのたたずまいが今のこの国の言…

社会のことを考えるな

ごくたまにだけれども、学生主催の講演会で話をしてくれと言われる。 とは言え、人を呼んで話を聞くという作法自体がすたれてきているご時世。主催者側には何の目算もない場合が多く、そうするものだ、という程度のこと。ひどい時には「いまどきの大学生にひ…

図書新聞

いま、敢えて「学生」である意味とは?

*1 ● 「今何やってるの?」 「学生やってます」 たとえば、親戚のオジさんとかに聞かれたらそう答えるでしょ。でも、その「学生」の内実ってただ学生証を持ってるってことだけで、考えてみりゃみんな案外他人ごとなんだよね。雑誌や新聞、テレビなんかのメデ…

たまたま、の東京――出郷者三代目の屈託

中村あゆみ (Ayumi Nakamura) Tokyo City Serenade 一応、東京生まれである。だが、東京生まれでいッ、と胸張って言うことはまずない。自覚もない。 生まれただけで育ったのは別の土地だ。たまたまそのころ東京で勤めていた会社員の家に生まれただけだもんね…

朝日新聞 東京版

主婦の「恋心」とは?

*1 まず、その「恋心」ってのが曲者だよね。 いい人だな、なんてなんでもない感情までいきなり「恋」に翻訳しちゃうと、単なる気まぐれやわがままかも知れないものすら今やおおっぴらにターボかかっちゃうでしょ。 「恋愛」ってのも、早い話が人づきあいのヴ…

インタヴュー・渡辺文樹

● いきなり眼の前に現われた渡辺文樹は、入口からのっしのっしと大股で近ずいてきた。そして、大きな声でお国なまりの挨拶一発。 「いやぁ、遠いところわざわざ来てもらって、悪かったねぇ」 福島市内、小さいけれども去年建ったばかりとかでまだ真新しい映…

ミュージックマガジン

「ジャーナリスト」という自意識のスカ

*1 自分が実際にどれだけの仕事をしてきているか、冷静に測定しようとしないままもの言いの次元だけで自意識を吹け上がらせる病いが根を張り始めている。自称「作家」に始まり、自称「ジャーナリスト」、自称「ルポライター」、自称「アーティスト」……うっか…

「異文化」なんてもの言い、いますぐ忘れちまいなよ

*1 *2● 「異文化」をどうやって理解するか、って話だよね。 結論から先に言えば、そんな「異文化」なんてもの言い、さっさと忘れちまいな、ってこと。 こう言うと、なんだか地球はひとつ、みんな同じ人間だから気持ちひとつでわかりあえる、なんて、まるでF…

素人の誠実、玄人の技術――吉井敏昭『“モノ”の履歴書』解説

*1 *2 「小さなもの」の救出、それが始まりにあった。そしてそれは、真なるものに対する危機的な関心とともにあった。したがって、その関心が衰弱しさらには放棄されるならば、小さなものはいわば誤まった注意深さを惹き起こすだけのものとなる。小さなもの…

「その他おおぜいの素人」の誇りと栄光を、いま、正しく取り戻すこと

*1 *2 *3 とにかく、ミニコミでも同人誌でもいいけど、いわゆる自前の学生メディアとか若者メディアの元気が今、まるでないよね。もうほんとに信じられないくらいに、ない。 ちょっと前までミニコミなんて言ったら、読み手としても作り手としても学生を抜き…