1995-01-01から1年間の記事一覧

岡 正雄

*1 民俗学や人類学まわりの学史を浪曲仕立てでやったらどうなるか、ということを、まだ院生の頃、いずれ劣らぬ悪ガキたちの間でやっていた時期がある。 その時気づいたことは、“ふたつのミンゾク学”(民俗学と民族学)が未だ渾然一体としていた戦前には、柳…

斎藤龍鳳

*1 「ルポルタージュ」とか「ノンフィクション」とか呼ばれる表現領域の、その文体がどのように構成されてきたのか、ということについて考える時、僕はことさらに斉藤龍鳳の仕事を引用することがある。今どきの大学生はもちろんのこと、同年代のもの書き稼業…

今東光

*1 正真正銘のバラケツである。つまり「不良」だ。 大正四年の一学期、関西学院中学部三年を諭旨退学。淡路島でひと夏遊んで暮らした後、親戚一同の協議により城崎の県立中学に転校。ここでも騒ぎを起こし、教師を殴って退学、神戸に舞い戻った。元町の絵具…

長谷川 伸

*1 ある時期までこの国に生きる人々にとっての一般教養となっていったような“おはなし”の束を、芝居や読みものという器にふんだんに盛って差し出した、それが長谷川伸だ。だが、駒形茂兵衛や、番場忠太郎や、沓掛時次郎といった名前を耳にして、その物語がよ…

秋田 實

*1 ラジオの出現が二人の人間による対話という現在の漫才の形式を定着させた、というのが、これまで民衆文化を語る時のひとつの定説になっている。そして、その対話という形式を、にわかや軽口の要素に音頭の形式が混入した雑芸の百貨店のようだった「万歳」…

TBS「サブリミナル」映像騒動

TBSの「サブリミナル」映像騒動は、事態の細部も責任の所在もよくわからないような「謝罪」のみで、例によってうやむやのまま収束してゆきそうである。 これは全くの当て推量で言うのだから、もしも違っていたらTBS関係者に本当のところをぜひご教示い…

結核、如何に金儲けになるか

「肺病それは今日の人類全てが例外なくとりつかれてゐる業病の名だ。都会人が百人よれば百人ともやられてゐる恐しい宿病なのだ。ピルケー反応といふ試験がある。肺病といふよりも結核に侵されてゐるか否かを試みる方法であり、之に陽性反応を示す者は結核患…

あなたの「立場」って何?――宗教学者だけが「無責任」なのではない

宗教学者が火だるまになっている。事態への対処があきれるほどナイーブで馬鹿正直な分、何やら島田裕巳だけが矢面に立ってしまっている観があるが、かつてオウムを持ち上げていたか否かなどとは全く別に、宗教学という看板を掲げて世渡りしてきた者全てが今…

漫画研究、この難儀な現在

研究であれ批評であれ、この国の漫画について内側からつぶさに言葉にしようとする意志にとって、少なくともここ二十年足らずの経緯を考えた場合、いやでも認識せざる得ない大きな転換がある。それは、現実に流通する漫画の「量」が個人で網羅し、読み尽くせ…

書評・井上章一『狂気と王権』(紀伊國屋書店)

まず著者に一言。もっとしっかり胸張りなって。 「本文中に引用した文献類でも、私自身が発掘したものは、そんなに多くない。たいていの資料は、すでに誰かが先に紹介してしまっている。私の本は、セコハンのデータをかきあつめた、やや概説的なしあがりとな…

週刊読書人

徳川夢声

*1 「ムセイ老」と呼ばれていた。まだ若い頃からだ。 「老」と呼ばれてしまうようなタチの奴が、たとえば学校の同級生といった広がりに、必ずひとりいる。ジジむさい、というわけでもないのだけれども、何か達観したような、その程度にはもののわかったよう…

花森安治

*1 神戸にはどうやら、奇妙なたおやめぶりの伝統がある。 稲垣足穂、今東光に淀川長治。少し下って手塚治虫に野坂昭如、さらに筒井康隆。世代は異なるとは言え、みんなどこかでおのが身にまつわるジェンダーを越境してゆくような表現の資質を持ってやしない…

中沢新一への手紙

前略、中沢新一様。 ごぶさたしています。その後いかがお過ごしでしょうか。 ある編集者を介して会いたいと言われて、湯島の何やら由緒ありげなすきやき屋でお会いして以来ですから、もう三年くらいたちますか。 あの時僕は、連れてゆかれたその店の、大層な…

その後の本間茂騎手

*1 もう六年前のことになる。スポーツ紙の一面はもちろん、一般紙の社会面にまで「地方競馬で八百長疑惑!」という見出しが躍った。当時川崎競馬に所属していた騎手が「八百長」の疑いで警察に逮捕されたというものだった。 しかし「八百長」だったと報道さ…

「ムラによって違う」の底力――赤松啓介vs.上野千鶴子『猥談』刊行に寄せて

「そらあんた、ムラによっていろいろ違いがありますわぁ」 こちらのつたない問いかけに対して、実に人のいい顔をしてにっこり笑いながらつるりと頭をなでる、そのしぐさがいつも眼の底に深く焼きついた。 「呵々大笑」というもの言いにそのまま実体を与えた…

西日本新聞

解説・赤松啓介×上野千鶴子『猥談』

猥談―近代日本の下半身作者:啓介, 赤松,千鶴子, 上野現代書館Amazon● いやあ、長かった。 やろう、ということになってからなんと五年。別にサボっていたわけではないことは、 版元である現代書館と担当編集者の村井三夫氏の名誉のために言っておきたい。結構…

赤松啓介×上野千鶴子『猥談』解説

ワイドショー批判、の正義とは

全てがワイドショー化した、と言われるオウム真理教がらみの報道。現実には、テレビの特番の視聴率がうなぎ上りで、スポーツ紙と夕刊紙が飛ぶように売れ、雑誌関係は言われているほどでもなく、単行本に至っては閑古鳥の大合唱、てなところがメディア間の温…

宗教学者、ってなあに?

それにしても、宗教学者というのは一体どういう人たちなのだろう。 別に、ここしばらくですっかり醜態をさらしてしまった、かつてオウム真理教を擁護した手合いをさして言っているわけではない。いや、彼らにしても、以前はあれをましな宗教だと思った、その…

オウムとメディア、その「批判」のありかたについて

*1 地下鉄サリン事件から始まったオウム真理教がらみの大騒動だが、事態がひとめぐりして幕切れが見えてくるに連れて、改めて警察の過剰捜査についての批判が出始めている。それらは報道のあり方に対する批判とも複合しながら、実際のところ何が起こっている…

書評・村井 紀『増補改訂・南島イデオロギーの発生』(太田出版)

南島イデオロギーの発生―柳田国男と植民地主義 (岩波現代文庫)作者:村井 紀岩波書店Amazon*1 柳田“悪人”説に傾く柳田論の系譜というのがある。柳田陰謀史観とまでは言わないが、もの言いの歴史として見れば、桑原武夫あたりに始まる牧歌的で「文人」主義的な…

図書新聞

書評・山口昌男『「挫折」の昭和史』(岩波書店)

不良の書いた歴史書である。 イデオロギーに縛られたまま身動きとれなくなり、どんどん世間離れしていったそこらの歴史学者たちとは根っから育ちが違う雑食性の知性。「近代日本の歴史人類学」という“いかにも岩波”なオビの惹句も、その知的不良の身のこなし…

産経新聞

オウムとメディア、その「批判力」のありかたについて

*1 地下鉄サリン事件から始まったオウム真理教がらみの大騒動だが、事態がひとめぐりして幕切れが見えてくるに連れて、改めて警察の過剰捜査についての批判が出始めている。それらは報道のあり方に対する批判とも複合しながら、なるほど大騒ぎしていることは…

オウムとメディア、その「批判力」のありかたについて (草稿)

*1 地下鉄サリン事件から始まったオウム真理教がらみの大騒動だが、事態がひとめぐりして幕切れが見えてくるに連れて、改めて警察の過剰捜査についての批判が出始めている。 それらは報道のあり方に対する批判とも複合しながら、なるほど大騒ぎしていること…

古書にあらわれたる「芸者」たち

● 芸者の本を集めている。 いらぬ誤解を招かぬようもう少していねいに言うと、芸者を中心としたいわゆる花柳界と呼ばれてきた世界のことを書きとめた本、あるいはそれらの世界も含めたかつての「遊び」の世界の内実を確かめることのできる本、を集めている。…

武蔵野美術  ささやかな昔