1997-01-01から1年間の記事一覧

おふくろの味・考

*1 ● お恥ずかしい話ですが、「風土食」という言い方があることを、今回、編集部から原稿を依頼されるまで、不勉強にして知りませんでした。 要するに、かつてならば「郷土食」「郷土料理」とか呼ばれていたものなんですね。なんだ、それなら民俗学がその視…

酒鬼薔薇の周辺、に告ぐ

かの神戸の一件について、案の定「教育」のせいや「家庭」のせい、果ては「社会」のせいにするもの言いが一部で流通し始めている。 反吐が出る。親ですら何してるかわからなかったものを学校の先生がわかるはずがない。まして社会が知ったことか。なのに、こ…

忘れられた「タフ (tough)」――浪曲と日本の近代

*1● 浪曲は忘れられた芸能です。 今日、日本人のほとんどは浪曲のことを知りません。若い世代はもちろん、大人でさえも浪曲のことを忘れています。浪曲のことを話して、あるなつかしさと共に応えてくれるのは、70代から上の老人たちばかりです。かつてはど…

酒鬼薔薇の「責任」

*1 さあ、もうはっきり言おう。顔をあげて、大きな声で正しくこう言い放とう。 それは社会のせい、ではない。学校のせい、でもないし、家庭のせい、でもない。教育のせい、でもなければ、地域のせい、でもない。 何か事件が起こった時に、そのように言いたが…

勝新太郎が逝った

勝新太郎が亡くなった。 はい、ご推察の通り、小生きっちり大ファンでした。 『座頭市』や『悪名』のシリーズもさることながら、『兵隊やくざ』シリーズがもう好きで好きで、ビデオを全部揃えてズブズブにハマっていた始末。原作になった有馬頼義の小説『喜…

政治家、がいっぱい

いやあ、細川の殿サマのご尊顔を本当に久し振りに拝見いたしました。ったって、もちろんテレビでなんですけど。 何でも新進党を離党なさったとか。ははあ、また例によっての田舎芝居ですかい、などと意地の悪いことを言うのはひとまず控えとこう。 彼にくっ…

「研究」という名の神――あるいは、「好きなもの」の消息について

「人の作りだした? あの時南極で拾ったものをただコピーしただけじゃないの。オリジナルが聞いてあきれるわ」 「ただのコピーとは違うわ。人の意志が込められているものよ」 ――第20話「心のかたち、人のかたち」 ● おそらく、『新世紀エヴァンゲリオン』…

ターミナルエヴァ 水声社

『失楽園』を嗤う

巷では『失楽園』がえらい評判だそうであります。 言うまでもなく、渡辺淳一サンのベストセラー小説でありますが、映画化されたものも昨今の日本映画には珍しい大ヒットとか。それはそれでまあ、結構なことであります。 ただ、小生こういう流行りものに対し…

柳美里、このけったいな勘違い

*1 6月11日、東京・神楽坂にある日本出版クラブ会館で、柳美里のトーク&サイン会が開かれた。主催は、角川書店と講談社。去る2月20日、21日の両日、東京と横浜の大手書店四店で予定されていた彼女のサイン会が「右翼」を名乗る男からの脅迫電話など…

「ストーカー」にも歴史あり

「ストーカー」というもの言いが、最近流行りのようです。テレビドラマにも取り上げられたり、例によってそういう手合いに悩まされている女性の相談窓口みたいなものもできている様子。 でも、男であれ女であれ、自分勝手に思い込んだ相手をつけ回したりする…

坪内祐三のこと

*1 坪内祐三はお笑いタレントの江頭2:50に似ている。もの書きとして名誉だと思う。 実際に顔会わせたのはこれまで二回きりだけれども、そのたびに、あの江頭ばりのどこか困ったむく犬のような眼で正面から口ごもられて、何かとても悪いことをしたような…

ワイドショーとニュースの関係

「神戸小六男児惨殺事件」が世間の話題をさらっている。とんでもねえ事件だというのはもちろんだけれども、ああ、とうとうこういう怪物みたいなわけのわからない内面を持ったのが平然と日常に存在するようになっちまったんだなあ、という感慨が僕にはある。…

俺に関する人違い

間違いは誰にでもある。はばかりながら小生なんざしょっちゅうやらかしてる。でも、やらかしてもないことをやったと言われて、しかも知らない間に勝手に叱られたりしてたんじゃ、こりゃちと困る。 “ペログリの文豪”田中康夫サンが某男性週刊誌の連載で「大月…

文庫と新書の矜持――古島敏雄『子供たちの大正時代』(平凡社ライブラリー) 阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書)石澤康治『日本人論・日本論の系譜』(丸善新書)

*1 最近、文庫のシリーズがあちこちで新たに創刊されている。はっきりとしたペーパーバックの伝統を持たないわが国の出版市場の中で、文庫本というのはマンガ本と共に、言わば日本版のペーパーバックの役割を担ってきたと言っていいと思う。 ただ、新たな文…

掏摸・巾着切りの近代――本田一郎『仕立屋銀次』(中公文庫)

「明治時代」とひとくくりに言います。文明開化の、陸蒸気の、鹿鳴館の「明治」。富国強兵の、自由民権運動の、征韓論の「明治」。けれども、その同じ「明治」という時代の中に、いつの時代もそうであるようにゆっくりと経過していったふだんの暮らしに即し…

青島都知事バッシング

先週は、青木大使叩きってちとヘンじゃないの、ってことを少し申し上げましたが、眼を転じれば、青島幸男東京都知事も近頃やたら叩かれております。元『話の特集』の編集長矢崎泰久サンなど、同志糾合して青島叩きのためだけに一冊本まで出される気張りよう…

ペルーの青木大使バッシング

ペルーの青木大使に対する風当たりが、にわかに強まっております。国は身代金を払えないから民間企業が払えと言っただの、ずっと酒ばかり飲んでいただの、記者会見での態度が悪かっただの、当初の英雄扱いから手のひらを返したような報道のされ方だ。 主なニ…

パソコン入れました

必要に迫られてとうとう仕事場にパソコンを入れた。笑ってやって下さい。小さなノートパソコンでも、反・電脳主義者としては童貞破りの如き一大決心でありました。 ワープロと比べると本当に「重い」。いや、本体の重さのことでもないし、よく言われる「速さ…

サイバースペースはトンデモワールドか?!

*1 インターネットで肥大化する自意識 インターネットに関しては、バラ色の能書きを垂れる人は腐るほどいるでしょうが、僕などの眼からは、少なくとも日本におけるそれは、どうもやっぱりキチガイと自意識過剰の高速増殖炉ではないか、と思わざるを得ません…

藤岡攻撃にみるコスプレ左翼の頽廃

先日、東京大学の安田講堂で「歴史教育討論会」という催しがあった。主催は東京大学新聞会。現場からの教育実践例を占部賢志、三橋広夫の両氏が報告した上で、さらに藤岡信勝と安井俊夫の両氏を交えて討論するという企画だった。所用があって途中から駆けつ…

「空襲」がこわかった――野坂昭如『一九四五・夏・神戸』(中公文庫)

「空襲」がどれだけこわいものだったか、という話がある。天変地異の新たなヴァリエーションとして、戦後半世紀の間、さまざまに語られてきたはずの「空襲」。 けれども、その「空襲」というひとことの向う側に、具体的にどのような暮らしの詳細があり、どの…

社会運動

「歴史」の「正しさ」について

● 八〇年代というのが何だったか、ということにこだわる性質(たち)が、どうやら僕にはあるようです。どうしてそんなにこだわるんだ、と、気心知れた友人にさえ時にあきれられるくらい、はたから見てその執着は強いものに映るらしい。 それは、自分の生まれ育…

「民主的人間」の罪

すでにご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、不肖大月、西尾幹二さんや藤岡信勝さんといった方々が呼びかけ人になって作った「新しい歴史教科書をつくる会」という会の片棒を、敢えて担がせていただいております。この四月から新たに採用された中学校の…

ヤンキーマンガの〈いま・ここ〉――古沢優『東京板橋マル走自動車教習所』

東京板橋マル走自動車教習所 1 (1) (ゴマコミックス)作者:古沢 優ゴマブックスAmazon 今、日本全国のコンビニエンスストアで売られる雑誌や文庫本、マンガ本など、いずれ「本」の形をした商品の売り上げ全部をひっくるめた額は、全国の紀伊国屋書店全ての売…

ビッグゴールド

組織のこわれかた(草稿)

*1 あまりと言えばあまりな、まるで寝小便がバレるのをビビる子供のような動燃の資料隠しの醜態を眼のあたりにして、五年ほど前に書いた原稿のこんな一節を思い出した。 〈滅亡のイメージというのがある。ある日突然やってくる最終核戦争、空を飛び交うミサ…

オンナたちの孤独――「東電OL殺人事件」をめぐって

● 「東電OL殺人事件」の語られ方は、例によってメディアの舞台にある発情をもたらしています。 だいたい、これって殺人事件ですよね。で、彼女は被害者ですよね。なのに、その犯人像の推測などはほぼそっちのけ、ただただその被害者である「彼女」の輪郭に…

SAPIO