思想

田中康夫、震災に軽挙妄動

田中康夫が震災被災地でボランティアに奔走しているという。笑止千万である。 かつて湾岸戦争の時、「文学者」という大時代な主体性で戦争反対を“宣言”する記者会見をやり、おおかたの失笑を買った一人だったのを小子は忘れていない。あの時は今は亡き中上健…

『マルコポーロ』廃刊について

『マルコポーロ』廃刊の一件である。 記者会見で文春が社長の田中健五名義でリリースした手紙を読んだ。ひどいものだ。いわゆる差別問題がらみの「糾弾」に対するルーティンの「謝罪」文書とどれだけ違うのだろう。いかに今回の問題がお粗末でも、こういう膝…

どうして「現場」へ行きたがる?――キャスターたちの「現場」

阪神大震災の報道を見ていて思ったことはいくつかあるが、まず不思議だったのは、どうしてニュースキャスターたちが先を争って現地へ行かねばならないのだろう、ということだった。いきなり「温泉場のようです」と馬鹿な第一声をやった筑紫哲也を初めとして…

岩田準一。志摩の入江に宿った 一途で美少年好みの小さな学問。

テーマは一貫して男色。昨今取りざたされることの多い、かの南方熊楠との間にも、たっぷりと往復書簡が残っている。 男色とひとくくりに言うものの、今はよくわからないものになっていて、ゲイだの何だのといきなりの横文字に突然この世に舞いおりたようにさ…

『全共闘白書・資料編』への疑念

いろいろと物議も醸した『全共闘白書』(新潮社)の、そのもとになったアンケートの全てをまとめたものが出た。『全共闘白書・資料編』と銘打ってあるが、版元は今度は新潮社でなく、「プロジェクト猪」名義での自費出版という形になっている。母数五千人弱…

「文学」の歴史性、その鈍感も含めて

同年代の、というと、具体的には三十代後半から、下はせいぜい二十代半ばあたりまでになるのだが、およそそのような年格好のもの書きや編集者たちと顔を合わせる機会があると、どうしてこれまで「文学」というのはあそこまで特権的な存在でいられたのか、と…

森 銑三

*1 書いたものを読んでいるだけで、どことなく読み手の気持ちを萎縮させる、そんなタチの書き手がいる。 ものが面白くないのではない。むしろ逆だ。面白い、興奮する、読んでゆくうち中身にぐいぐいと引き込まれもする。だが、どこかでそれらの文字をつむぎ…

大江健三郎「ノーベル賞」の無惨

大江健三郎のノーベル文学賞受賞は、やはり大きなニュースとして報道されました。 仕方のないことなのでしょう。彼の出身地の人たちにまでコメントを求めるのは、昨今のニュース報道の紋切り型ですから別にどうということもありません。その地元の人たちが「…

夕刊紙の古色蒼然

タブロイド版の夕刊紙というのは、つい習慣で買ってしまうものだ。たいていは駅売りのキヨスクかコンビニあたり。宅配もやっているらしいが、わざわざ自宅に配達してもらっているという人の話は寡聞にして知らない。メディアとしてはあくまでも家の外で斜め…

『別冊宝島』創刊200号

宝島社の看板雑誌『別冊宝島』が創刊二〇〇号を迎えました。 それを記念して、これまでのベスト・セレクションが出ています。題して『我らの時代』。表紙の惹句によれば、「二〇〇冊一二万枚の原稿の中から選ばれた、時代を浮き彫りにする傑作ノンフィクショ…

ドイツの「言葉狩り」、裏返しのファシズム

一四日付の本紙朝刊の一面に、実にいやな記事が載っていた。 冒頭の部分を引用しよう。「ドイツ連邦政府は一三日、第二次大戦中にヒトラー・ドイツが犯したユダヤ人の虐殺を歴史的事実として認めない発言があれば、その発言だけで懲役三年以下の犯罪になる――…

『噂の真相』へ反論

筆の勢いというのはある。また、勢いで書きつけねばならぬ仕事の立場というのもある。だが、それも長年やっているとその立場も自覚できぬままの、言わば考えなしの自動筆記と化してくる。ひとり正義ヅラしたメディアの無責任はそんなところに胚胎する。 *月…

拝復、『噂の真相』賛江

筆の勢いというのはある。また、勢いで書きつけねばならぬ仕事の立場というのもある。だが、それも長年やっているとその立場も自覚できぬままの、言わば考えなしの自動筆記と化してくる。ひとり正義ヅラしたメディアの無責任はそんなところに胚胎する。 *月…

『噂の真相』創刊15周年

『噂の真相』が創刊十五周年を迎えた。 発行部数についてはもったいつけて一切沈黙を守っているが、流通その他の周辺情報から推測すると八万部前後は出ている様子。このような規模の小さな雑誌が廃刊、あるいは事実上寝たきり状態になってゆく中、曲がりなり…

本多勝一事件顛末詳細

仕事としてのスジは通した。あとはケンカだ。 毎日新聞の水曜日の夕刊に連載している「大月隆寛の無茶修行」でのインタヴュー原稿をめぐって本多勝一氏との間で起こったいざこざについて、“こちら側”から見た経緯をまず述べる。他人のケンカのいきさつをくど…

ホンカツとケンカしました

世の中いろんな人がいる。 あたりまえのことではある。あるが、しかし本当にその「いろんな」の内実をあからさまに眼の前にすることというのは、日々の流れの中ではそうそうなかったりもする。 でもさ、本当にいろんな人って、いるよ。どうしてまぁこんな風…

「良心的」出版社という幻想

大学の教員、ないしはそれに準ずるような「学者」「知識人」方面を、著者としても読者としても、主な相手にして成り立っている出版社がある。 文部省科研費の出版助成などをアテにした事実上買い取りに等しいような企画で糊口をしのぐ会社もあれば、目立たぬ…

「教育」はいかに語られてきたか

*1 編集部のOさんからドカッと眼の前に積み上げられた、いずれ「教育」や「学校」にまつわる本はここ十年の間に出された都合一〇冊。具体的には以下のようなものだった。とりあえず初版刊行年代順に並べてみる。 林竹二『教育亡国』(筑摩書房 一九八三年)…

戦争が「とにかくよくないもの」のままであることの危険性

*1● 「戦争」というもの言いが、ずっと気にかかっている。 単語としての「戦争」というのは、それが活字のかたちで目に触れる場合であれ、あるいはもの言いとして耳に入る場合であれ、今やこの国ではとにかくよくないもの、ひたすらに悪いもの、無条件に忌み…

「その他おおぜいの素人」の誇りと栄光を、いま、正しく取り戻すこと

*1 *2 *3 とにかく、ミニコミでも同人誌でもいいけど、いわゆる自前の学生メディアとか若者メディアの元気が今、まるでないよね。もうほんとに信じられないくらいに、ない。 ちょっと前までミニコミなんて言ったら、読み手としても作り手としても学生を抜き…

「歴史」をほどく耳――解説・平岡正明『耳の快楽』

*1 平岡正明オン・エア 耳の快楽作者:平岡 正明メディア: 単行本 初対面は品川駅の構内、京急デパートの一角にある喫茶店だった。慶応の学園祭でのDJ形式の講演会の評を、仲間うちに向けた小さなニューズレターに書いた。それをどこからか手に入れた『サン…

とうに涅槃を過ぎて――鶴見俊輔をめぐる“気分”の共同性について

● ものを書きそれをカネに替えるという営みに手を染め始めた頃のことだ。今すぐにとは言わないしその準備もない、だが、いつかきっと鶴見俊輔の仕事についてその功罪を含めて正面から論じてみたい、と言ったら、ある年上の編集者から「悪いこと言わないから…

叩く側の誠意、叩かれる側の貫禄

*1 ここしばらく、右へならえして左翼叩きが始まっている――。 なんて、すでにどこかの新聞の囲み記事なんかで誰かが必要以上に深刻ぶって言ってるかも知れないけど、そりゃ違う。勘違いだ。正直に言おう。それは“叩き”というほど元気の良いものでもなくて、…

趣味は社会主義――『朝日ジャーナル』という「趣味」の雑誌

*1 今も『朝日ジャーナル』を読んでいる人たち、というのがいる。 いや、天下の朝日新聞の、それも売りものとして世間に流通している雑誌なのだから落ちぶれたりとは言え何万人かの読者はいるのはあたりまえ(かな?)なわけだし、第一そういう人たちがいら…

学校という依代

*1 今からちょうど百年ばかり前、この国の、とある小さな町の中学校の教員の書き残した日記に、次のようなエピソードが記されている。 彼の受け持ちのクラスに横木という少年がいた。大工のせがれで、両親には彼を中学へあげるだけの余裕がなかったが、小学…

拝啓、井上緑様――東大「中沢新一騒動」と、ある女子高校生のこと

*1 *2 *3拝啓、井上緑様。 あなたは今、どこで、どのように、この一九九二年の春を迎えているのでしょうか。 今からちょうど四年前、一九八八年四月一三日付『朝日新聞』の投書欄に、「栃木県在住」の「公立女子高校生」だったあなたの手紙が載りました。ご…

『朝まで生テレビ』参戦顛末

*1 *2 たたずまいが雄弁に表現するなにものか、というのがある。とりわけ、それが生身の生きものだったりすればなおさらだ。 忙しげにゆきかう男たちや、ある種の緊張を漂わせながらセットの裏でくつろぐ女性キヤスター、さらに、肉食動物のように電話に飛び…

大宅文庫に集まる人々

*1● 京王線八幡山駅をおりる。新宿より各停で20分。明大前でイワシの如く乗り降りする偏差値55前後の民主主義ヅラの学生たちに混じって急行に詰め込まれ桜上水でセコく乗り換えるという手もあるが、ここに来るのは各停がいい。朝の9時少し前、ラッシュの名…

それは「八百長」ではない ――本間茂騎手「八百長」事件報道に見る「大衆競馬」の正体

● この六月二一日の朝、川崎競馬の本間茂騎手が競馬法違反の容疑で逮捕された、というニュースが朝刊の紙面に踊った。スポーツ紙はもちろんのこと、朝日、読売、毎日の日刊紙もこぞって社会面で報道した。 本間茂騎手と言えば、南関東の公営競馬でも文句なし…

ものみなすべて「ネズミ講」 にハマる――高度大衆消費社会にからみついた「群を抜く力」の不幸

*1 ● ああ、布施博だ、と思った。 厚手のつややかな紙にフルカラーで刷られた誌面に、ずらり並んだ明るくさわやかな顔、顔、顔……。撮り方にもよるのだろう。しかしそれでも、ここまで同じ明るさを等量に放射する写真を並べるためには、撮る側の意図や技術と…